ホベルト・サトシ・ソウザという希望

8月9日に開催される「RIZIN.22」で矢地祐介vsホベルト・サトシ・ソウザの試合が決定しました。

ストライカーである矢地と圧倒的なブラジリアン柔術のテクニックを持つサトシの一戦は、打撃vs寝技といった総合格闘技らしい攻防がみられるのではないかと期待しています。

サトシは、名前からも分かるように、日系ブラジル人です。

生まれたのはブラジルのサンパウロで、18歳の時に来日しています。 父親は有名なブラジリアン柔術家で、お兄さんたちと一緒に小さい頃から柔術の手ほどきを受けていました。

お兄さんたちのあとを追うように来日したサトシでしたが、当初から格闘技だけで生活していたワケではなく、工場で働いたりしていた時期もありました。

日系ブラジル人のルーツは、かつて日本がまだ豊かではなかった頃にまで遡ります。「ひと旗上げたい!」と願う多くの日本人がブラジル、アルゼンチン、ペルーといった国々に移民として渡りました。いま日本に住んでいる日系ブラジル人の方々は、かつて日本からブラジルへ渡った人たちの子孫です。

個人的に、日系ブラジル人であるサトシには思い入れがあります。

それは、僕自身が日系ブラジル人が多く住む町で生まれ育ち、彼らに対する差別や偏見を見聞きしてきた経験があるからです。

※以下、日系ブラジル人を「日系人」と省略します。

僕が生まれたのは、サトシの所属する「ボンサイ柔術」の道場がある静岡県浜松市から少し離れた田舎町です。日系人を数多く雇用している工場が地元にいくつかあり、物心ついた頃から日系人という存在は身近なものでした。日本に働きに来ている日系人の子どもが同じクラスにいたりするんですよね。

子どもというのは、時にけっこう残酷なことを言ったりします。日系人の子とケンカになった同級生が「ブラジルに帰れ!」と言ってしまったりするんですよね。

いちばん衝撃を受けたのは、僕が中学生の時の親友が言い放った「ブラジルの連中がいるからさ、犯罪とか起こるんだよね」 という言葉でした。

彼は、決して嫌な人間ではありません。それは親友であった自分がいちばんよく知っています。大人しい性格で、いじめの被害者になることはあっても、絶対に加害者にはならないようなタイプでした。「善良な人間」だと言っていいと思います。

そんな彼の口から日系人にたいするそんな言葉が飛び出したことに中学生ながらものすごい衝撃を受けました。

残念なことですが、僕の住んでいた町やその周辺の地域では日系人に対して偏見を抱いている人が一定数いるようでした。

工場で働いている日系人の男性が自治会によって転入を拒まれるという出来事も過去に静岡県内で起きています。
※記事がリンク切れを起こしているのでURLは貼っていませんが、毎日新聞など複数のメディアでこの出来事は報じられました。

「日系人は犯罪を起こす」というイメージを抱いている人が一定数いるようです。それが恐怖と差別につながっているような気がします。たしかに、日系人が事件を起こし、それが報道されたことはあります。日系人というのはその独特の名前で分かりますし、なんというか、印象に残りやすいんですよね。

しかし、まっとうに生活をしている日系人が大多数です。僕自身やまわりの人間で日系人の犯罪被害に遭った人はひとりもいませんし、僕のクラスメイトだった日系人のご両親も真面目に働かれている方たちばかりでした。

僕が地元を離れて何年も経ちました。リーマンショックの前に比べて日系人は減ったと聞きましたが、スーパーに行けば日系人のご家族がお買い物をしていたりしますし、日系人らしき小中学生が楽しそうに遊んでいる姿を目にすることもあります。

そしてやはり、日系人に対する偏見も残っているかと思います。差別や偏見というのは、そう簡単になくなるものではありません。

ちょっと重い話になってしまいましたね。そろそろ格闘技の話に戻ります笑。

ホベルト・サトシ・ソウザという格闘家の存在は、日系人にたいする偏見を取り払う一助になるのではないかと思っています。

やはり日系人に対する偏見の根底には「日系人は犯罪を起こす」「日系人はマナーが悪い」といった固定観念があるのだと思っています。サトシは、そんな固定観念を払拭してくれるような気がするんですよね。

決してトラッシュトークで相手を罵倒したりせず、倒した相手にも敬意を払う格闘家としての品位の高さ。道場では子どもたちに優しく指導する「サトシ先生」というもうひとつの顔。サトシほど粗暴さや傲慢さを感じさせない格闘家も少ないと思います。

総合格闘技という弱肉強食の世界に生きながらも礼節と優しさを忘れず、多くの日本人ファンから愛されるホベルト・サトシ・ソウザは、日系人にたいして偏見を抱いている人たちの心も動かしてくれると信じています。

いかにも日系人といった彫りの深い顔の男が柔術の道着を着て入場し、大会場に集まった多くの日本人から声援を送られているという事実。これを知って日系人に対するイメージが悪くなるような人はまずいないでしょう。

格闘家はやはり試合に勝つのがいちばん大事です。しかし、それ以外にも大事なことってあると思うんです。サトシにとってそれは、格闘技を通じて日本人と日系人のあいだの懸け橋になることなのかも知れません。

矢地vsサトシは、RIZIN復活を象徴するような大会でメインクラスの扱いを受けると思います。時に偏見の目で見られる日系人のサトシが「ニッポンの格闘技」の復活に貢献するというワケです。個人的に、なんだか感慨深いものがあります。ちょっと大げさに考えすぎかも知れませんが笑。

次の試合の結果はどうなるか分かりませんが、僕は少しでも多くの人にホベルト・サトシ・ソウザというひとりの日系人の試合を観て欲しいですし、彼という人間を知って欲しいと思っています。

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