朝倉海という「ストーリー・メーカー」の衝撃

10月12日(土)に大阪で開催された「RIZIN.19」で「路上の伝説 弟」こと朝倉海は佐々木憂流迦と対戦し、1R54秒ドクターストップ勝ちしました。海の打撃によって憂流迦の顎は完全に破壊されていて、ドクターストップという終わり方ではありましたが、海の完勝といっていい内容だと思います。

試合が終わった後に憂流迦が自分の顔面のレントゲン写真をツイッターにアップしたところ、顎の骨が完全に2ヶ所折れていて、多くの人が海の打撃力に驚愕することになりました。中には、海のドーピングを疑っている人もいるようです。

僕は格闘家でも医師でもないので、海がドーピングしたかどうかは分かりません。RIZIN参戦以降の海は決してKO率が高くはなく、前回の堀口戦で急に覚醒したようなイメージでした。そのことを考えると、ドーピングを疑う人も出てくるだろうなとは思います。

このブログでは、海がドーピングしたかどうかについては論じるつもりはありません。

僕が個人的に面白いと思っているのは、前回の堀口戦と今回の憂流迦戦において、朝倉海というファイターが意図せずして「ストーリー・メーカー」になっているということです。

少し前に有名なライターが「堀口恭司にはストーリーがない」というようなことを書いて、賛否両論(ほとんどが否)を巻き起こしていました(笑)。僕はこのライターの言うことにも一理あるなと思っていました。

堀口のストーリーはちょっと分かりにくいのです。UFCが日本市場を重視しない状況の中であまり試合を組んでもらえず、彼はリスクを冒して階級を上げ、RIZINのリングを主戦場とすることを選びました。そして、そこで誰もが認めざるを得ないような素晴らしい戦果をあげてみせました。

そして、師匠である山本KIDが死去したことで、堀口のストーリーにはさらに深みが増しました。しかし、本人のキャラクターがあまりにも「真面目なアスリート」的であるがゆえに、どこか共感しにくい部分がありました。それが「堀口恭司にはストーリーがない」と言われてしまうことにもつながったのだと思います。

しかし、朝倉海に劇的なKO負けを喫したことにより、堀口のストーリーには「挫折」という非常に分かりやすい要素が加わりました。堀口は修斗時代に1度、UFC時代にも1度(王者デメトリアス・ジョンソンとのフライ級タイトルマッチ)で敗北を喫しているのですが、当時の堀口は現在のような絶対王者的なポジションではなく、決して衝撃的な敗戦ではありませんでした。

朝倉海は衝撃的なジャイアント・キリングで自身の格闘家としての価値を一気に上げてみせましたが、それと同時に堀口恭司という偉大なファイターに「挫折」という分かりやすいストーリーを提供してみせたのです。

あの名古屋での劇的な試合のあと、以前よりも堀口を応援したくなったという人は決して少なくないと思います。

佐々木憂流迦もUFCでランカーとの試合を経験するなどした強豪です。しかし、ストーリーという点で見るとやはり分かりにくい選手だと思います。国内にいた頃はあまりメジャー団体にも出場しておらず、UFC出身といえど、決して抜群の知名度を誇る選手というワケではありませんでした。

独特のキャラクターやあの工夫を凝らした入場は僕も大好きなのですが、なんというか、ちょっと世界観を観客と共有しにくいような気がします(笑)。

しかし、そんな憂流迦も朝倉海に敗れてしまったことで、今まさに新たなストーリーを得ようとしています。

それは「大ケガから立ち直った」というストーリーです。

今回の顎の骨折はかなり酷く、しばらくは流動食しか食べられず、復帰にはかなり時間がかかりそうです。それは選手として間違いなくマイナス要因なんですが、このような大ケガを喫したことで、彼は大きな注目と声援を受けることになりました。

憂流迦のツイッターには多くの人から応援のメッセージが届いています。その中には、現役のプロ格闘家もいれば、朝倉海のファンだという人もいます。それだけあの敗戦とそれによるケガは衝撃的なものでした。

個人的には、あんな大ケガをしながらツイッターに自身の状況を写真つきでアップし続けた憂流迦もさすがだなと思っています(笑)。あれ、たぶん騒ぎになることをある程度予想していたんじゃないですかね。敗北を単なる敗北で終わらせない憂流迦はしたたかですね。

今後の朝倉海にはもちろん大注目ですが、彼によって新たなストーリを与えられた堀口と憂流迦からも目が離せません。

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