丸藤正道は新生NOAHでなにを成すのか?

新生ノアの顔は清宮海斗に決まった。

2019年3月10日に横浜文化体育館で行われた、チャンピオン 清宮海斗vsチャレンジャー 丸藤正道のGHCヘビー級タイトルマッチは、清宮が丸藤をタイガースープレックスホールドで沈め、3度目の防衛に成功した。

このビッグマッチは、ノアにとって特別な意味を持っていた。新しいロゴ、緑から白へと変わった新しいマットで行われる最初の大会のメインだったのだ。この試合の勝者こそ、新生ノアの顔になることが宿命づけられていた。敗れた丸藤は、ノアのメインストリームであるGHCヘビーのベルトをめぐる闘いからの後退を余儀なくされた。

 

清宮が台頭するまで、丸藤は間違いなくノアの顔だった。秋山準、潮崎豪といった主力レスラーが全日に移籍した際も丸藤はノアに残り、杉浦貴らと共に箱舟を舵を取った。新日の永田裕二に奪われたGHCヘビーのベルトを取り戻したのも丸藤だった。鈴木軍がノアを侵略したとき、丸藤はノアの誇りを背負い、鈴木みのる率いる黒の軍団と闘い続けた。

しかし、最近の丸藤はノアよりも他団体への参戦で成果をあげている印象が強かった。その最たる例が、初出場で初優勝という快挙を成し遂げた昨年のチャンピオン・カーニバルだろう。チャンカーは言わずと知れた全日の歴史あるリーグ戦。大きな肉体を誇る猛者たちが集うリーグ戦において、丸藤はゼウス、諏訪魔の2人には敗北したものの、ノア時代から因縁のある秋山準を下し、決勝戦では三冠ヘビー級王者宮原健斗に完全勝利をおさめ、王道の春の祭典を制した。

しかし、ノアの内部においては、杉浦貴の保持するGHCヘビーに挑戦するも敗北。グローバル・リーグ戦では決勝に駒を進めるものの、自らのケガにより棄権を余儀なくされた。自らが棄権した決勝戦を制してその後チャンピオンにまで上り詰めたのが清宮だった。前述の通り、丸藤はその清宮に敗れ、「ケガさえしなければ優勝したのは清宮ではなく丸藤だった」というファンの幻想を壊してしまった。

決して丸藤の存在価値が低下しているワケではない。昨年9月に行われた自身のデビュー20周年大会では両国国技館という大会場を観客で埋め尽くし、WWEからの異例の招へいに成功したヒデオ・イタミ(KENTA)とのシングル・マッチを敢行してみせた。

僕自身もあのとき両国にいたのだけれど、会場の熱気は本物だった。丸藤正道は間違いなくノアにとって必要不可欠なレスラーなのだと強く感じた。

 

しかし、時の流れは残酷だ。「箱舟の天才」と言われた男も今年で40歳になる。もともとケガも少なくはなく、肉体的には完全にピークは過ぎてしまっていると思う。先日の横浜文体で丸藤が清宮に敗北したのは必然だった。

ノアは新たな航海に出ようとしている。運営会社が変わり、ロゴもマットの色も変わった。ノアという団体名そのものを変えてしまおうという話もあるようだ。目まぐるしく状況が変わる中で、丸藤はノアにとって不必要な人材になってしまうのだろうか?

個人的な意見なのだけれど、決してそんなことはないと思う。このところ、丸藤はSNS上で「丸藤見たけりゃNOAHに来い」というフレーズを多用している。もとは『週刊プロレス』に掲載された記事のタイトルなのだが、このフレーズを多用するということは、ノアの新しい運営会社が丸藤はまだまだ集客効果の高いレスラーだという認識を持っている事実を示していると思う。そうでなければ、丸藤がこのフレーズを多用することを会社が認めるとは考えにくい。

ノアの新しい運営会社は、ノアのレスラーを他団体の興行には積極的には貸し出さない方針を表明している。丸藤が新日で棚橋弘至やオカダ・カズチカの持つベルトに挑戦したような「外敵」としての役割を果たすことは今後なくなるのかも知れない。だからこそ「丸藤見たけりゃNOAHに来い」なのだと思う。

丸藤は自らの所属団体での闘いに集中していくと思う。もしかしたら、ノアに招へいした大物レスラーとのノンタイトルでの一騎打ちが丸藤にとって最大の役割になるのかも知れない。GHCヘビー級王座というノアのメインストリームからは距離を置きながら、ノアのベテランかつ、かつてのエースとして団体の誇りをかけた闘いを展開していくのではないだろうか。

しかし、個人的には、丸藤にはもっとエゴを出して欲しい。空気を読まず、もっとどん欲にベルトに絡み、後輩レスラーの壁になって欲しいと思っている。このまま素直にベルトをめぐる闘いから後退してしまうのは、あまりにも寂しすぎる。

丸藤はどんな時もノアを守ってきた。時にはノアの代表として他団体に乗り込み、そこで華々しい成果をあげてきた。僕が丸藤に興味を持ったきっかけも、新日の棚橋の持つIWGPヘビー級王座に挑戦した試合だった。丸藤はノアの最後の砦であると同時に、ノアの伝道師でもあった。

丸藤には、もっとワガママを言う資格があると思う。そして、僕はそんな丸藤をいつまでも応援していきたい。

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