宮原健斗 「満場一致で最高!」な明るくて大きな花

新日本プロレス以外でいま最も注目されているレスラーは誰かと聞かれれば、僕はやはり全日本プロレスの宮原健斗だと思う。自分と同い年というだけで勝手に宮原に注目したのが始まりだけど、彼をウォッチしていて本当に良かったと思う。ひとりの青年が王者として、そして団体をけん引するエースとして成長していく姿をリアルタイムで確かめられたのだから。

宮原がレスラーとしてデビューしたのは佐々木健介の「健介オフィス(のちのダイヤモンド・リング)」で、デビュー後は師匠である健介も参戦していたノアや全日本プロレスのリングに上がった。全日ではヒールユニットのブードゥー・マーダーズに加わるなど、師匠の健介や兄弟子の中嶋勝彦にはない独特の行動をとる。ヒール時の経験がレスラーとしての幅を広げたという意見もある。ブードゥー・マーダーズを脱退したあとは、当時の全日のエース格だった潮崎豪と行動を共にするようになる。そしてダイヤモンド・リングを退団し、わずかなフリーの期間を経て、2014年1月に全日本プロレスに正式入団する。

宮原にとっての最大の転機は、2015年9月に潮崎が全日を退団し、古巣のノアに戻ったことである。これで全日のヘビー級に大きな空席が出来た。当時の宮原は潮崎と共に世界タッグ王座を手にしていたため、潮崎の退団にともなって王座を返上することになってしまう。しかし、ここから宮原の快進撃が始まる。
2016年2月、三冠ヘビー級であった諏訪魔がケガで王座を返上したことによる新三冠王者決定戦が行われる。エントリーされたのは宮原と「筋肉獣」の異名を持つボディビル出身のゼウス。ゼウスの圧倒的なパワーに苦しみながらも宮原は奮闘、そして遂に念願の三冠ヘビー級王座を手に入れる。この時の宮原は若干26歳。三冠王者の最年少記録を更新してみせた。それまでの最年少記録保持者が1990年に三冠を獲得したテリー・ゴディだというのだから、いかに宮原の記録が快挙だったのか分かる。
しかし、この時の宮原にはまだ頼りなさがあった。「若くて顔が良いから、ピンチの全日にゴリ押しされてるチャンピオン」などと揶揄する声もあった。僕もその当時、宮原の三冠戦を楽しみにするというより、王座を落としてしまわないかという不安の方が大きかった。しかし、宮原はそんな不安を跳ね返すように、次々と現れる強豪レスラーを相手に防衛を重ねていった。そして、宮原の放つ陽性のパワーが全日本プロレスを明るくしていった。

宮原が新王者になった頃から、全日本プロレスの客入りが良くなったと言われはじめた。2016年春、全日のヘビー級のリーグ戦であるチャンピオンカーニバル開幕戦が後楽園ホールで行われた。その興業が満員をたたき出したというニュースが耳目を驚かせた。新日本プロレスにはまだ遠く及ばないものの、全日は明らかに復調してきていた。この年のチャンピオンカーニバルで優勝したのは大日本プロレスの関本大介だったが、宮原は2度目の防衛戦で関本を退け、全日の至宝を守り抜いた。実力者であり、チャンピオンカーニバル優勝で勢いに乗る関本を下したことで、宮原はレスラーとしての評価を高めた。両国国技館という大会場で行われた三冠戦でも、前王者である諏訪魔を破り、5度目の防衛に成功。そのような実績が評価され、2016年のプロレス大賞敢闘賞を受賞した。全日勢の受賞は久しぶりであり、全日には宮原を中心とした明るい光が輝いていた。

宮原というレスラーを語るときに欠かせないのが、その陽性でナルシスティックなキャラクター。みずからを「満場一致で最高の男」と称し、入場の際には観客からの拍手とコールを激しく求める。リングインにもしっかりと時間をかけ、ゆっくりと猫のように姿勢を低くしてリングに入ったあとはコーナーポストに一気に駆け上がり、人差し指を空にむかって突き立てるお決まりのポーズをとる。この時が絶好のシャッターチャンスになる。僕のようにカメラが下手な人間でも、宮原のこのポーズを上手く撮れなかったときはない。メインの試合を勝利で締めくくったあとは、マイクを持ち「全日本プロレス、最高でしたか!?」と観客に呼びかける。時にはマイクを持たずに退場しかけ、観客からのコールをあえて引き出したあと「俺、すごく疲れてるんだけど、みんながやれっていうからさあ」みたいな顔をしながらも、最後は「全日本プロレス、最高でしたか!?」と呼びかけ、観客の「最高!」を引き出し、大会を明るくしめる。
全日の中でこれほど観客の目を意識し、観客とコミュニケーションをとり、観客を盛り上げたレスラーがいただろうか?全日は伝統的にあまりマイクアピールなどをしない団体。「レスラーは黙って試合で魅せる」というような文化が残っているような気もする。しかし、宮原はそんな文化は気にしない。入場にも、試合にも、退場にも全身全霊で臨み、観客を楽しませる。そして、宮原に触れた観客はまた全日の大会に足を運ぶ。全日の復活は、宮派の存在なくしてはありえなかった。

宮原を形容する言葉はいくかあると思うが、僕は「分かりやすい」という言葉を選びたい。宮原健斗は分かりやすく観客を魅了する。彼のツイッターからはポジティブな言葉が発信され、精力的に全日のプロモーション活動をしている様子も伝えられる。もちろんファンサービスは全力の笑顔でする。とっても分かりやすいベビーフェイスなレスラー。
肝心の試合の内容にほとんど触れていないが、代表的な技は「ブラックアウト」という膝蹴りと相手の両腕をホールドしたうえでいちどタメを作ってから放つ「シャットダウン・スープレックス」である。打撃系の技は初心者にも伝わりやすいし、シャットダウン・スープレックスはホールドした腕を離されるかどうかの攻防があり、ハラハラする。新日の棚橋弘至の「ハイフライフロー」などに比べると少し玄人好みな気もするが、試合の組み立ても非常にうまく、観客を退屈させない。プロレスラーのひのき舞台である入場については、先に述べた通り。とにかく観客を煽って盛り上げる。一部のプロレス通にだけ評価されても仕方がない。だって彼は「満場一致で最高な男」なのだから。

宮原の師匠である佐々木健介は、決して観客からの支持を得やすいレスラーではなかった。しょっぱいという意味で「塩介」と揶揄されたりもした。今の宮原があるのは、健介の厳しい指導を受けながらも、ブードゥー・マーダーズに加わって悪に染まるなど、自身のプロレスの幅を広げる努力を欠かさなかった賜物だと思う。そんな努力が身を結び、デビューした団体からの退団、パートナー離脱による王座返上といった試練にも耐え、いま日本中のプロレスファンから注目される、明るくて大きな花を咲かせている。

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