可哀想なチー牛先輩の話②

俺が働いている会社には、チー牛そっくりの先輩がいる。びっくりするぐらい似ている。チー牛と呼ばれるために生まれてきたと言っても過言ではない。先輩からチー牛を取ったら何も残らな…。

いや、残るんだよな。

「自分の仕事も満足に出来ないのに余計な口出しばっかりするイタい人」という要素が残ってしまう。

このチー牛のイタい口出しエピソードについては前回も書いた。

今回は、チー牛の違った一面にスポットライトを当てていきたい。

まあ、決して褒める内容ではないんですが。

俺がいる会社では、いつくかのチームに分かれて作業をしている。俺、チー牛、陰で女を殴っていそうな顔なのにやたらと親切な先輩は同じチーム。もちろん、チームには他にも何人か社員・アルバイトがいる。

事業の内容的に、一般的な会社のように全社員が一斉に休憩を取るということが出来ない。小売店のように交代で休憩に行くスタイルだ。いつ休憩に行くかは事前に決めてはおらず、極端に人が少なくなる時間を作らない限りいつ行っても構わない。

ある日、俺は休憩に行こうとした。そのとき同じチームで出社して作業していたのは俺とチー牛だけ。他の人はミーティングや休憩で席を外していた。

席を立ち、チー牛の後ろを通り過ぎた時に声をかけられた。

「え?この状況で休憩行っちゃうの?」

チー牛が呆れたような顔をして俺を見ていた。眉間に皺を寄せ。まるで口うるさいベテラン社員のような雰囲気を醸し出している。ちなみに、チー牛は入社して1年経っていないアルバイトだ。

「あ、はい」

めんどくせえなと思いながらも、さすがに先輩を無視するのもアレなので俺はそう答えた。

「はあ、俺にひとりぼっちで仕事させるの?」

チー牛はまるでアメリカ人のように両手を広げて大げさにアピールした。声がそこそこデカいせいで他のチームの人たちがこちらを見ている。ちょっと恥ずかしい。

たしかに、チー牛の言うようにひとりで作業する時間が生まれるのは避けるべきだと言われていた。

しかし、このチームにはリモートワークの人がいるのだ。

コロナの影響でリモートワークを導入しており、そのときもリモートの人が何人か稼働しているのを確認して俺は席を立とうとした。決して適当にやっているワケじゃない。リモートの人が残っている場合はひとりで作業することにはならない。それは他の先輩から確認済みだった。

そのことをチー牛に告げると、チー牛は面白くなさそうな顔でこう言い放った。

「そうかあ~!それじゃあ俺ひとりで頑張るかあ!」

そして、俺の方をチラリと見てきた。

『いや、リモートの人がいるからひとりじゃないやん』

チー牛のチラ見がやたらとムカついた俺だったが、さすがにその場でケンカするワケにもいかず「それじゃ、行ってきます」と言ってそのまま休憩に向かった。

チー牛に腹が立ったぶん、秋から冬へ向かおうとする青空がとても綺麗だったのを覚えている。

後にこのことを上司に確認したのだが、俺の行動に問題はないとお墨付きをもらった。

しかし、なぜチー牛はあのようなことを俺に言ってきたのか?

たとえリモートの人が他にいても、入社したばかりの新人をひとりにするのはマズいということなら理解できる。心細いだろうし、なにかトラブルが起きた時にものすごい不安になるだろうということは想像に難くない。

しかし、チー牛は俺より先輩なのだ。

まさか、心細いのか。

とても残念なことなのだが、たぶんそういうことなんだよね。

チー牛はひとりで仕事をするのが心細く、寂しいのだ。

リモートの人がいても、まわりを見渡した時に誰かがいてくれないと心細くて堪らないのだろう。

チー牛は極端な寂しがり屋なのだ。

実は、チー牛がなんとも情けない泣き言を言っているのを聞いたことがある。

相手は、陰で女を殴っていそうな顔をしている先輩だ。身長が高いのを活かして膝蹴りとかしているかも知れない。恐ろしい男だ。一刻もはやく司法の裁きを受けて欲しい(ちなみに俺にたいしてあり得ないぐらい親切な人です)。

その先輩にたいしてチー牛が言っていたのは「まわりに人がいなくなって寂しい」というものだった。

俺の入社前の話だが、コロナのためにリモートを導入。さらに感染防止のために席同士の感覚を広くしたようなのだ。そのため、社員同士の距離は同じチームであっても少し離れている場合が多い。

チー牛としては、それが凄く堪えるらしい。

なんというか、知らねえよと言うしかない。

何年か前に「会社は学校じゃねえんだよ」という言葉が流行った。

チー牛にはその言葉を送りたい。

会社は学校ではない。

仕事をして、その見返りに賃金を得る場所だ。

ちょっとした付き合いやコミュニケーションはもちろん大事だが、仕事の基本はそれだと思っている。

チー牛はそれが理解できていないとしか思えない。

「NEYAPRO君をちゃんと指導しなきゃダメじゃないか」などとクレームをつける前に、仕事とは何なのかをよく考えてもらいたい。

そもそも、仕事中に私語厳禁というワケではないし、チー牛だって他の社員に話しかけてウザがられたりしているではないか。

まさか、もっと話したいのか?

それほど寂しいのか?

だとしたら同情すべきことかも知れないが、会社はそこまで面倒を見てくれない。

陰で女を殴っていそうな先輩だって、家に帰れば朝に殴った彼女をいたわるようにセックスして繋ぎとめておくというミッションがあるだろう。

なんでお前の淋しさに付き合ってやらなくてはいけないのか。

あまりにも他者にたいして甘えすぎだ。

自分の淋しさは自分で処理するしかないんだよ。

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