僕たちは「RIZIN大好き」さん騒動とどう向き合えばいいのか
SNSで「本当に癌なのか?」と騒がれていた「RIZIN大好き」さん騒動はRIZINの公式アカウントが以下のような発表をしたことにより、なんとなく落ち着きそうな雰囲気です。
この発表によれば「RIZIN大好き」さんが癌だというのはまったくの虚偽であるということです。精神障害についても書かれていますが、非常にデリケートな問題でもあり、ここでは触れないことにします。
彼は何人かの選手から試合で使用したアイテムなどを譲り受けており、それらは癌と闘病しているという嘘の前提に基づいたものであるがゆえに返却されるとのことです。
今後の展開がどうなるのか分かりませんが、今回のRIZINの発表をうけてファンとしては「とりあえずは良かったかな」というのが率直な感想です。
今回の騒動をめぐって考えの異なるファン同士が対立したりするような場面も見受けれたので、まずは「癌ではなかった」という結論が出ただけでも前進だと思っています。
あとは当事者同士が法の下に解決すべき問題だと認識しています。
しかし、この「RIZIN大好き」さん騒動がどうしてここまで大きくなってしまったのかは考えなければいけないと思っています。
そうすることで、今後似たような事件が起こる可能性を少しでも小さく出来るかなと考えています。
今回の騒動は多くのファンも巻き込むような形だったことが特徴のひとつです。
少なくない人が「RIZIN大好き」さんの登場を機に発売されたチャリティーのTシャツを購入したり、彼にたいして応援のメッセージを送ったりしていました。
「RIZIN大好き」さんはプロモーション映像の中にも登場し、単なる「重い病気と闘うひとりのファン」という枠には収まらないような存在にまでなりました。
どうしてそこまでの熱狂が生まれたのでしょうか?
ちょっと飛躍しすぎかも知れませんが、その熱狂の背景には「自分たちが愛する格闘技が高尚なものになって欲しい」というファンの願望があったような気がします。
現在の日本において、格闘技は決して社会的ステータスの高いスポーツではないと認識しています。
昔に比べると大晦日の視聴率も低く、那須川天心や朝倉兄弟のようなスターも生まれはしたものの、選手や団体の知名度は野球やサッカーのようなメジャースポーツに到底およびません。
「怖い」「暴力的で嫌だ」と格闘技に対する抵抗感を示す人だっています。
反社会的勢力とつながりがあるのではないかと勘繰る人もいます。
格闘技というスポーツを愛するファンからすれば、そんな状況は悔しいですし、変えたいと思うのが普通だと思います。
そこに現れたのが、癌と闘いながら「格闘技から勇気をもらっています!」と笑顔で語る「RIZIN大好き」さんです。
「自分たちの好きな格闘技は癌の患者さんに勇気を与え、大きな希望となっている」という状況が生まれました。
競技のファンとしてこれほどうれしいことはありませし、そんな人を応援したくなるのは当たり前のことかなと思います。
暴力的だとか面白くないだとか言われることもあるけれど、こうやって格闘技を生きる希望にしている人がいる。自分たちの愛する格闘技はやっぱり素晴らしいスポーツなんだ。
「RIZIN大好き」さんを応援しながら、そんな気持ちになっていた人は決して少なくないと思います。
それはまったく後ろめたいことではないですし、批判されるべきことだとも思いません。
しかし「RIZIN大好き」さんがそのように格闘技の素晴らしさを体現してくれているような方だったからこそ、ちょっとおかしな点があってもそこから疑惑が広がりにくかったという点はあると思っています。
あと個人的に思うのは、懸命に癌と闘っているようにみえた「RIZIN大好き」さんの姿に、2018年に癌による多臓器不全で41歳の生涯に幕を閉じた山本”KID”徳郁さんの姿を重ねていた人もいるんじゃないかなということです。
KIDさんの癌があきらかになったのは2018年の8月末で、お亡くなりになったのはその年の9月半ばでした。あっという間のさようならでした。
多くの人は「大好きなKIDさんを応援したい!」と思ったハズです。僕もそのひとりでした。しかし、すでに癌はかなり進行していたようで、KIDさんはファンがなにか具体的なアクションを起こす前に天に召されてしまいました。
「もっと早く癌のことを知っていればなにか出来たかも知れない」
そう思った人はきっといるハズです。そんな人が「RIZIN大好き」さんのことを知った時、まるでKIDさんにたいする後悔の念を払拭するかのように全力で彼のことを応援するようになったのではないでしょうか。
だとしたら、「RIZIN大好き」さんのついた嘘というのはあまりにも大きなものだったと思います‥。
今回のような残念な出来事を二度と起こさないようにするには、格闘技に対する熱い想いを持つと同時に、真偽を見極めようとする冷静な観察眼を養うしかないのかなと思っています。
むやみに人を疑うのは良くないことですが、今回の件を受けて疑心暗鬼な状況がしばらく続いてしまうのは仕方がないと思います。このショックを時間をかけてゆっくりとファン一人ひとりが噛み砕き、自分なりに消化していくしかないでしょう。
最後に言いたいのは、病気の人を支援するというのは素晴らしいことだと思うので、今後もこのような活動は続けていって欲しいということです。協力した格闘家やアパレルブランドにまったく罪はありませんし、完全なる被害者だと思っています。責められるべきは「RIZIN大好き」さんと真偽を見極めることの出来なかったRIZIN運営だというのが自分の考えです。