大晦日を楽しもう④石井慧 vs.ジェイク・ヒューン

かつての日本の総合格闘技では、ヘビー級こそ花形でした。ヒョードル、ミルコ、ノゲイラ、藤田といった選手がしのぎを削り、観客は迫力に溢れる彼らの闘いに熱狂しました。

しかし、アメリカのUFCが圧倒的な隆盛を極める現在、トップクラスのヘビー級選手を日本の団体が確保することは難しくなっています。そのような事情もあり、RIZINではあまりヘビー級の試合は組まれず、最も人気のある階級は男子バンタム級という状況です。

そんな状況で12月31のRIZIN.20で行われるジェイク・ヒューンvs.石井慧の一戦は、ヘビー級の試合としては久しぶりに面白くなりそうです。

あの石井慧が帰ってきます。

かつてオリンピックで金メダルを獲得しながらも柔道界での地位を捨て、総合格闘技に殴り込みをかけた石井ですが、参戦のタイミングが非常に悪かったという印象があります。

かつて栄華を極めたPRIDEはすでに存在せず、デビュー戦はSRC(戦極)で行われました。その後、日本の格闘技界は冬の時代を迎えます。金メダリストという実績のある彼の試合もそれほど注目されず、「あのまま柔道をやっていた方が良かった」などという声もありました。

しかし、石井慧はプライドを捨て、あくまでも「総合格闘家」として強くなるための地道な努力を続けてきました。

石井はミルコ・クロコップに2度の敗北を喫したあと、彼の所属チームである「チーム・クロコップ」に自らも加わりました。いくらミルコが伝説的な格闘家であるとはいえ、自身が苦杯を舐めさせられた選手のチームに出向くという姿勢には非常に驚きました。この頃から、僕は石井慧という選手に異常なまでのストイックさを感じるようになりました。

彼は現在チーム・クロコップのあるクロアチアに住み、国籍すらもクロアチアに変えました。日本代表として五輪の英雄となった男はすでに日本人ではないのです。

すべては、総合格闘家として強くなるため。その目的を果たすことが出来るならば、プライドや国籍なんて関係ない。これほどストイックな格闘家を僕は他に知りません。

そんな石井慧が日本のリングに帰ってきます。決して凱旋帰国といえるような華々しいものではないと思っています。彼は一度もUFCでは試合を出来ていませんし、トップクラスのヘビー級選手を相手に結果を出せているかというと、そうではありません。直近の試合でも敗北を喫しています。それほど、世界のヘビー級戦線は厳しいのだと思います。

大晦日の他の対戦カードに比べると少し注目度が低いような気もします。意地悪な言い方ですが、現在の「総合格闘家 石井慧」の価値はそれほど高くないのかも知れません。

しかし、石井慧が総合格闘技デビューした時から彼のことを知っているファンは、間違いなく彼の試合に注目しているハズです。

彼が時代に恵まれなかったこと、強くなるためにあらゆるこだわりを捨てていること、あまりにも厳しすぎるヘビー級戦線で懸命に闘っていることを‥。

今回の試合は、スーパースターの凱旋試合ではありません。

世界を舞台に闘い続ける、日本にルーツを持つひとりの男に対し、日本の観客が感謝とエールを送るための試合なのだと思っています。

『俺たちに夢を見させてくれてありがとう!そして、もっと大きな夢を見させてくれ!』というエールを。

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