拳王 令和の「真剣勝負」の行方

11月2日のノア両国大会をきっかけに、拳王とノアの親会社であるリデット・エンターテインメントの社外取締役&エグゼクティブディレクターである田村潔司とのあいだに、なんだか令和の時代に似つかわしくない因縁が生まれています。

清宮海斗とのタイトルマッチの最中、拳王は場外戦の際にリデットの取締役会長である長州力を睨みつけ、それに対して長州の隣に座っていた田村が「おい!」と拳王をいさめるような発言をしたのがきっかけです。

この因縁が一気に盛り上がったのは、のちに拳王が田村にたいして「俺と真剣勝負してください」と最近プロレスが好きになった人にはとっては全く意味が分からない発言をしたからです。

昔からプロレスが好きだった人はご存知だと思うんですが、この「真剣勝負してください」というフレーズはかつて田村潔司がUインター時代に師匠である高田延彦にたいして言い放ったものなんですよね。

結局、その発言があったときには高田が田村を黙殺。ふたりの真剣勝負はPRIDEのリングで行われた高田の引退試合まで持ち越されることになります。そして、田村は右フックで高田を一撃KOし、高田はリングを去ります(ハッスルの高田総統についてはややこしいので例外とします笑)。

なぜ拳王は今更こんなフレーズを使って田村を挑発したのか?これは僕の個人的な意見なんですが、拳王はあの挑発によってノアにおける自らのポジションを揺るぎないものにしようとしていると思うんです。

ノアという団体は、創設者の三沢光晴があまりマイク・パフォーマンスを好まない性格だったこともあり、言葉を使ったアピールが上手いレスラーがあまりいませんでした。三沢亡き後に入団してきた拳王は、生き残りの厳しいインディー出身ということもあってか、非常にマイク・パフォーマンスに長けています。拳王はたしかなプロレス技術を持っていますが、どちらかといえば、言葉の力によってノアという団体のトップ戦線にまで駆け上がってきた印象があります。

そんな拳王がたいした狙いもなしに無駄な挑発をするとは考えられません。あれは間違いなく、彼がしっかりと考え抜いたうえで生み出した生き残り戦略なのだと思います。彼は思いつきでたいした意味もない挑発をするような頭の悪いレスラーではありません。

僕はあの「俺と真剣勝負してください」という拳王のセリフを聞いたとき「今のノアっぽくないな~」と思いました。ロゴも変わり、マットの色も変わり、新しい王者の勢いは止まらず、以前よりもユニットごとの活動も活発になり、細かい話ですがグッズにも注力するようになりました。新日本プロレスの後を追いかけるかのように、ノアは生まれ変わろうとしています。

そんな中で飛び出してきた「俺と真剣勝負してください」ですよ!空気を読まないにも程があるじゃないですか。あんなセリフ、最近になってプロレスを観るようになった女の子が聞いたら絶対にポカンですよ(笑)。

拳王は反体制派ユニット「金剛」のリーダーですから、親会社であるリデット・エンターテイメントのやり方に反発するのはおかしなことではありません。しかし、あの発言は反体制派レスラーとしてのキャラクターからも逸脱するような危険な香りを帯びています。しかし、だからこそいいんです。

金剛のような反体制派ユニットはどの団体にも存在します。全く珍しくありません。反体制であるということは、レスラーとしての突出した個性にはならないのです。拳王は、そこに危機感を持っていたのだと思います。

両国でのタイトルマッチに敗北したことで、しばらくは清宮海斗の持つGHCヘビーへ挑戦する機会はないでしょう。だからといって、今更ジュニアに戻るのも違和感がありますし、新設されたナショナル王座をもし獲得できたとしても、今度はその王座に縛りつけられ、思うような行動がとれないかも知れません。

そんな状況の中で、ファンに自らの存在感をあらためてアピールし、レスラーとしての突出した個性を打ち出す手段こそ、あの「俺と真剣勝負してください」だったのだと思います。あえて「今のノアっぽくない」アクションを起こすことで、団体内で特異なポジションを築こうとしているのではないでしょうか。

ノアの選手ではなく、フロントにいる人間に狙いをつけ、その中でも田村潔司を選んだという点に、僕は拳王というレスラーの頭の良さを感じます。

田村はいわゆる「プロレスっぽいプロレス」を否定してきた人間です。自らの信念を貫くために、Uインターと新日の対抗戦に出場しなかったのは有名な話です。そんな彼がリデットの社外取締役になったことに驚いた人も多かったと思います。新日をモデルに生まれ変わろうとしているように見えたノアの親会社に田村が関わるなんて、違和感にもほどがあります。

だからこそ、拳王は田村を選んだのだと思います。違和感のある人間に絡めば、絡んだ方にも必ず違和感が伝染するからです。違和感をうまく使いこなせば、それはやがて強烈な個性になります。

ノアには清宮以外にも、魅力的なレスラーが沢山います。丸藤正道、杉浦貴は昔からのノアファンから圧倒的な支持があります。潮崎豪も年齢的にまだまだトップ戦線に絡める選手です。中嶋勝彦やマサ北宮も強力なライバルです。

そんなレスラーたちがしのぎを削る中、拳王はどう転ぶか分からない賭けに出ました。賭けに勝つか負けるかは分かりませんが、田村潔司という美味しいターゲットはもう拳王のものです。残された他のレスラーたちはどうするのか?プロレスリング・ノアという方舟の航路がまた面白くなってきました。

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