ゼウス 紆余曲折でかまわへん!人生は祭や!

全日本プロレスにゼウスというレスラーがいる。三冠ヘビー級王座も獲得した経験もあり、間違いなく全日のトップレスラーのひとりだ。

いかつい顔つきにボディビルで鍛えた筋骨隆々の肉体。そして、その肉体に刻まれたタトゥー。観る人に強烈なインパクトを与える外見をしている。

試合はその肉体が生み出す凄まじいパワーを軸に組み立てられる。力任せのファイトだけではなく、時には俊敏な動きで相手を翻弄することもある。特に彼のトペは、まるで上空の鷲が地上の獲物にむかって襲いかかるような迫力と美しさがある。

このゼウス、地元大阪での人気は凄まじいものの、同じ全日所属で同団体のエースである宮原健斗に比べると、全国区での知名度はまだまだ低い。

ぶっちゃけ、僕はこのゼウスがそれほど好きというワケではない。理由は本当に単純で、宮原や去年のチャンピオン・カーニバルに参戦したノアの丸藤正道のような自分が好きなレスラーに対して、なぜか黒星を与えることが多いから。正直、逆恨みに近い(笑)。

そんなゼウスについて、なぜブログで書くのか?それは、彼のプロレスに対するあまりにも熱い想いを少しでも多くの人に知って欲しいからに他ならない。

彼のプロレスは人を勇気づける。それは決してゼウスファンではない僕も認めざるを得ない。なぜなら、僕自身が彼のプロレスに勇気をもらっているからだ。

ゼウスは大阪で生まれた。在日コリアンで、名前は金 繁優(キム・ボヌ)といった。2011年に日本に帰化し、現在の本名は大林賢将という。

子どもの頃は優等生であり、中学から内部進学で高校に進んだ。しかし、次第に優等生はグレはじめる。素行不良から高校を退学。さらに入り直した別の高校も退学してしまう。10代の頃のゼウスは、溢れんばかりのエネルギーをうまくコントロールすることが出来なかった‥。

そんな彼を救ったのはボディビルだった。おのれの肉体を徹底的に鍛え上げるこの競技は、ゼウスの有り余るエネルギーを発散するのに最適だった。選手権で優勝するなどゼウスはボディビルで確実に成果をあげていった。

しかし、彼はボディビルだけで満足するようなタイプではなかった。自慢の肉体を武器に地元の大阪プロレスへ入団。団体を代表するレスラーにまで成長し、当時圧倒的な人気を誇っていたハッスルへも参戦した。

ゼウスは実はボクシングに挑戦したことがある。実際にプロテストに合格し、クルーザー級でデビューもしている。しかし、デビュー戦の結果は判定負け。そのままボクサーは引退ということになっている。

こうして見ると、ゼウスというレスラーは本当に紆余曲折が多い。人によっては「フラフラしている」と批判的な目で見るかも知れない。しかし、僕はこのような紆余曲折があったからこそ、彼の試合は観る人の心を動かすのだと思っている。それについては後述。

ゼウスの真価が発揮されるようになるのは、ボクシングからプロレスに復帰し、全日本プロレスへ参戦するようになってからだと思う。

2015年には潮崎豪の持つ三冠ヘビー級王座に挑戦。敗れはしたものの、その闘いぶりは高い評価を受けた。

全日本の所属となってからは、同じくボディビル出身のボディガーとタッグを組み、全日のタッグ戦線を盛り上げた。ボディガーとのタッグ「ザ・ビッグガンズ」で世界タッグ王座を通算4度も獲得している。

シングル戦線では宮原健斗の最年少三冠王座獲得時の対戦相手に選ばれるなど、どちらかというと引き立て役のような立場だったが、次第にシングル・プレイヤーとしての評価を高めていく。

2018年の夏には、遂に因縁の宮原を地元大阪で粉砕し、念願の三冠ベルトを獲得する。しかし、1度の防衛には成功したものの、リターンマッチで宮原に敗れ、短命王者に終わってしまった。

三冠王座こそ手放したものの、ゼウスはがっつりと全日のトップ戦線に食い込んでいる。今年のチャンピオン・カーニバルでは、優勝した宮原に黒星を与えるなどの活躍を見せた。

宮原は華麗なプロレスを魅せ、ゼウスはハードなプロレスを魅せる。このふたりの奏でる男くさい二重奏は、外れのない名勝負数え歌といっても過言でないと思う。

ゼウスは勝利後のマイクで「人生は祭」という言葉をよく用いる。

祭というのは楽しいものだ。しかし、祭の本番までには辛い稽古があり、地道な準備も欠かせない。華やかで楽しい祭の本番にたどり着くには、様々な苦難を超えなければならない。

祭というのは、人生の縮図だと思う。

ゼウスは「人生は祭」という言葉を通じて、観客にエールを送っている。人生には辛いこと、理不尽なことも多い。紆余曲折の青年時代を歩んできたゼウスは、なによりそのことを理解しているのだと思う。

しかし、ゼウスはどんな困難や挫折にも負けなかった。より輝ける自分を求めて、努力を続けることを怠らなかった。だからこそ、レスラーとして現在のような地位を築くことが出来た。だからこそ、プロレスの試合という祭の本番で観客から万雷の拍手を浴びることが出来る。

冒頭に、ゼウスのプロレスは人を勇気づけると書いた。彼の人生を知り、彼の試合を観て、彼のマイクを聴いて心を動かされない人はいないと思う。僕自身、仕事がうまくいっていない時に彼の試合を観戦し、胸に熱いなにかがこみ上げるのを感じたことがある。

人生は祭。皆さんは、祭の本番にもうたどり着きましたか?僕はまだまだ稽古が足りないみたいです(笑)。

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