清宮海斗 若き虎の背負った使命

プロレスリング・ノアのヘビー級のリーグ戦「グローバル・リーグ」は今年で9回目を迎えた。そして、そのリーグ戦を制したのは若干22歳の清宮海斗だった。もちろん、歴代優勝者の中ではぶっちぎりの最年少記録となる。はじめて『週刊プロレス』の表紙も飾り、清宮は一気にスターダムにのし上がった。しかし、この栄光に至るまでの道のりはあまりにも切なかった…。

 

カナダで武者修行していた清宮がファンから注目を集めたのは、拳王がエディ・エドワーズからGHCヘビー級王座を奪取した直後に突如として会場に現れ、宣戦布告を行ったときだった。しかし、その時の清宮にはインパクトはあったが、実績がなにもなかった。半年の海外遠征で肉体は大きくなり、見た目の印象も変わったが、その実力には当然のことながら疑問符がついた。拳王の初防衛戦の相手に選ばれ善戦したものの、ファンからは「負けたけど清宮もよく頑張った」という程度の評価しか得られなかった。
その後は杉浦貴、丸藤正道といったトップレスラーと次々にシングルマッチが組まれるものの連敗。大見得を切って凱旋してきただけに、負け続けるその姿はあまりに痛々しかった…。

 

散々痛めつけられた清宮はノアのトップレスラーのひとりである潮崎豪とタッグを組み、タッグのリーグ戦「グローバル・タッグ・リーグ」を制した。そして中嶋勝彦とマサ北宮の持つ「GHCタッグ王座」に挑戦し、見事奪取に成功した。しかし、ダイレクトリマッチで前王者組のリベンジを許してしまい、短命政権に終わった。
潮崎や丸藤や中嶋が正真正銘ノアのトップなら、清宮はそのトップたちのいる最前線に入り込もうとしながら蹴散らされ続ける「有望な若手レスラー」のひとりだった。凱旋直後に見えたような気がした若々しく強いオーラもいつしかなくなっているような気がした。そんな清宮にとって、今回のグローバル・リーグこそ、絶対に結果を残さなければならない大事なリーグ戦だった。

 

プロレスの神様がいるとするなら、清宮はその神様にやっと微笑まれたとしか思えなかった。清宮は満を持して臨んだこのリーグ戦で、杉浦、潮崎といったノアの強豪たちを破って決勝まで勝ち上がってきた。決勝では今年でデビュー20周年を迎える丸藤正道と激突するハズだったが、丸藤はケガで決勝進出を断念。中嶋勝彦、拳王、ゼロワンの佐藤耕平の3人による3WAYマッチを行い、それを制した中嶋が決勝に進んだ。
中嶋と清宮、このふたりには間違いなく「差」があった。中嶋はまだ30歳だがデビューが15歳と大変早いこともあり、キャリアの面では清宮を圧倒する。ノアのフラッグシップタイトルである「GHCヘビー級王座」を戴冠したこともある。実績だけでみれば、清宮の圧倒的不利だった。

 

丸藤の欠場という波乱に見舞われたグローバル・リーグ決勝。清宮にとっては、直前まで相手が誰になるのか分からない不安な中で迎えた大一番だった。しかも相手は何度も苦渋を舐めさせられてきた中嶋。清宮は間違いないくすさまじい緊張に襲われていたと思う。しかし、コールを受けた時の清宮は、どこか振り切ったような表情を見せていた。どこかに自信を感じさせるようでもあった。清宮は、初出場のこのリーグ戦を通じて、杉浦と潮崎を破るという紛れもない大金星をあげていた。その2つの勝利が清宮の心を強くしていた。
そして試合が始まった。空手をバックボーンとする中嶋の強烈な蹴りが清宮を襲う。時折反撃を見せる清宮だったが、何度も修羅場をくぐり抜けてきた中嶋を相手に、なかなか流れを掴めない。しかし、この時の清宮は、なんの実績もない状態で勢いだけで拳王に挑戦してきた時の清宮ではなかった。タッグ・リーグで優勝し、短命政権とはいえタッグ王座も戴冠した。そして、このリーグ戦では間違いなく自身の実力で決勝までたどり着いてみせた。その自信が、その意地が清宮を支えた。

 

試合は中嶋の優勢で進んでいるように見えた。中嶋は弱った清宮に三角蹴りを見舞おうとコーナーに登る、その隙を清宮は見逃さなった。コーナーに登った中嶋を得意のドロップキックで撃墜してみせると、リング上でふらつく中嶋の後頭部に2発目のドロップキック。そして、ジャーマンスープレックスで3カウントを狙うもギリギリのところで返されてしまう。しかし、そこで諦める清宮ではなかった。ダメージの残る中嶋の両腕をホールドすると、かつて三沢光晴が得としていたタイガースープレックスを見事に決めてみせた。そして、後楽園ホールに集まったファンのコールと同時にカウント3がついに決まった。清宮が中嶋に勝った。そして、グローバル・リーグ優勝を果たした。この瞬間、清宮海斗は「有望な若手レスラー」から「ノアのトップ・レスラー」へと進化を遂げたのだった。

 

清宮はまだ22歳。いくらグローバル・リーグを制したとはいえ、まだまだ若いことに変わりはない。そんなレスラーにプレッシャーをかけるのはおかしいかも知れない。しかし、僕は清宮には使命があると思っている。それは、ノアを変えることだ。

 

現在のノアのトップは、GHCヘビー級王者である杉浦貴だといえる。鍛え上げられた肉体、相手を破壊しかねないハードな闘いぶり、王者としての堂々たる風格はトップにふさわしい。しかし、杉浦がベルトを巻いている姿には、新しさがない。かつて同王座を14度も防衛したこともある杉浦は、あまりにもベルトに馴染みすぎてしまっているような気がする。杉浦からベルトを奪わないかぎり、ノアの風景は変わらない。

 

グローバル・リーグを制した清宮には、杉浦の持つベルトへの挑戦権が与えられた。そして、12月16日、横浜文化体育館で杉浦貴vs清宮海斗のGHCヘビー級タイトルマッチが行われる。清宮にはこの試合に勝って、ノアの新しくて刺激的な景色を見せて欲しい。若くまだまだ未完成な若者が団体至高のベルトを巻く姿を見せて欲しい。ノアを新しいステージに持っているけるのは、清宮海斗だけだと思っている。清宮なら、それが出来ると信じている。

 

ノアの頂点に立ち、ファンに新しい風景を見せる。それが清宮海斗、三沢光晴の魂を受け継ぐ若き虎の使命だと思っている。

 

 

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