まだ見ぬ「潮崎時代」はやって来るのか?

現在プロレスリング・ノアのフラッグシップタイトルである「GHCヘビー級王座」のベルトは48歳の杉浦貴の腰にある。この年齢のレスラーがチャンピオンになること自体は決して珍しくはないが、杉浦は4度目となる戴冠を果たして以来、6度の防衛に成功している。防衛戦の相手の中には、この春に開催された全日本プロレスのチャンピオン・カーニバルを外敵として制した丸藤正道など、錚々たるメンバーの名前が連なる。杉浦は紛れもないノアのトップ・レスラーたちを相手に防衛を重ねてきた。

 

僕個人の想いとしては、現在の杉浦のような役割を果たして欲しいレスラーがいる。それが潮崎豪である。
潮崎は21歳でノアに入団。そのルックスの良さと逞しい肉体は、レスラーとしての輝かしい未来を予想させた。09年に死去した三沢光晴の「最後のタッグ・パートナー」にも若くして選ばれ、三沢死去の翌日に行われたGHCヘビー級タイトルマッチでは、力皇猛を破り、その栄光のベルトを自らの腰に巻いた。しかし、わずか1度の防衛に成功したのち、ベルトは杉浦貴に奪われてしまう。杉浦はその後、14回もの防衛に成功している。15度目の防衛戦の相手に選ばれた潮崎はベルトの奪還に成功、ついに栄光の「潮崎時代」が幕を開けるかと思われたが、4度目の防衛線で森嶋猛にベルトを奪われてしまい、またもや長期政権を築くには至らなかった…。

 

潮崎はその後、秋山準、金丸義信、鈴木鼓太郎、青木篤志らと共に全日本プロレスに移籍する。これはノアにとって大変な痛手であり、ノアが長らく集客に苦戦する一因にもなった。
潮崎は全日において「王道トーナメント」優勝、フラッグシップタイトルである「三冠ヘビー級王座」戴冠といった実績を積み重ねた。しかし、三冠王座は2度の防衛に成功したものの、曙を相手に迎えた3度目の防衛に失敗。またもや短命王者に終わってしまった。

 

その後、潮崎は全日を退団し、古巣であるノアに「出戻る」ことになる。ノアでは因縁の相手である杉浦貴を倒し、3度目となるGHCヘビー級王座戴冠を果たした。しかし、すぐに杉浦にベルトを奪い返されてしまう。その後、中嶋勝彦の王者時代にも同王座に挑戦するも惜敗。直近では、4度目の王座戴冠を果たした杉浦にも挑戦したが敗れてしまった…。
GHCヘビー級王座を3度も戴冠し、三冠ヘビー級王座も手にした潮崎だが、そんなメジャータイトルの最多防衛記録はたったの3回。いまだに「潮崎時代」と呼べるほどのものを築けていない。

 

現在のノアはいわゆる「世代闘争」を主軸としたストーリーが展開されている。上世代には、杉浦、丸藤、齋藤彰俊、モハメド・ヨネなどのベテラン・レスラーが顔を揃えている。対する下世代には、中嶋、拳王、マサ北宮、小峠篤志、清宮海斗ら若手レスラーに加え、潮崎も加わっている。潮崎は下世代の中では、最も年上のレスラーということになる。
上には丸藤、杉浦といった大先輩がおり、下には中嶋や拳王といったGHCヘビー戴冠経験のある実力・実績ともに十分な後輩がいる。うがった見方をすれば、潮崎は形の上では下世代に属しているが、実質的には先輩と後輩のあいだに挟まれた中途半端な世代ともいえる。しかも潮崎には「出戻り」という過去がある。

プロレスラーにとって最も大切な要素のひとつは「ファンからの支持」だと思っている。50に近い年齢の杉浦がチャンピオンでいられるのは、鍛え上げられた肉体やプロレスセンスの高さもあるだろうが、決して年齢を言い訳にしない潔さや苦しい時にノアを支え続けた真摯な姿勢がファンの支持を得ているからだと思う。
今までの潮崎には、そんな「ファンからの支持」が足りなかった気がする。この「寝屋川プロレス入門塾」のツイッターにリプライをくれたノアファンの方の言葉を借りれば「潮崎は涙を流して応援する気になれない」のだという。

 

今さらどうしようもないことだが、潮崎にとっての最大の失敗は全日への移籍だったと思う。あそこでノアに留まり、ノアを引っ張っていくことを宣言していたら、「ミスター・ノア」としてノアを代表するレスラーとしてのポジションを獲得できたかも知れない。ジュニアから階級を上げてきた丸藤や杉浦とはちがい、潮崎は純粋なヘビー級としての肉体を持つ。そして、レスラーとしてのキャリアをノアからスタートさせている。まさに「ミスター・ノア」となるにふさわしい要素を兼ね備えていた。しかし、彼は全日移籍という道を選択した…。

 

潮崎は決して器用な選手ではない。ヘビー級の肉体を持つとは思えないほど高い射程のドロップ・キックを放つオカダ・カズチカのようなズバ抜けた運動能力はない。時に過激なマイク・パフォーマンスでファンを鼓舞する拳王のような発信力もない。美しい容姿と逞しい肉体にも、徐々に年齢の影がさしているようにも思える。潮崎にはもう時間がない。

 

年齢的にも、現在のノアの状況をみても、潮崎が「潮崎時代」を築くチャンスは決して多くはない。杉浦、丸藤の壁はいまだに厚く、後輩である中嶋、拳王らには既にシングルで黒星を喫している。このままでは、潮崎はノアの中で完全に埋没してしまう。
しかし、この状況はある意味でチャンスだともいえる。人は苦しい状況にある者を応援する傾向がある。先輩に頭を押しつけられ、後輩からの突き上げをくらう現在の潮崎のような状況にある人は決して少なくない。潮崎はファンの「共感」を得やすい立場にあるともいえる。この「共感」を「支持」に変えたとき、はじめて「潮崎時代」が訪れるのではないか。僕はそう思っている。

11月からノアのヘビー級リーグ戦である「グローバル・リーグ」が開幕する。潮崎はこのリーグ戦を制したことがまだ一度もない。昨年は決勝戦で、勢いに乗る拳王の前に惜敗を喫した。36歳の潮崎には、このグローバル・リーグに背水の陣として臨んで欲しい。
かつて三沢光晴がその素質に惚れ込み、タッグ・パートナーとして異例の抜擢をした男。GHCヘビーと三冠ヘビーの2つのメジャータイトルを手にした男。そんな男がこのままで終わっていいハズがない。ファンから「涙を流して応援する気になれない」と言われて終わってしまうのはあまりにも悔しい。

 

潮崎豪、僕はまだまだ貴方に期待しているんだ!

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